町に連れて行ってもらった。みんながセンターと呼ぶその場所は文字通り町の中心地だ。小さなマーケットがある。連れて行ってくれたのは四男のハミッドと三男のジャミル。彼らは基本的に時間をもてあましているようだ。町には友達だらけで、立ち止まりあいさつをする。一向に先に進まない。アラブ圏の人たちの結束の強さを改めて実感させられた。
毎週月曜日に大きなマーケットがあるとかで３人で行くことに。乗合タクシーで10分、巨大マーケットに到着。ここにはなんでも揃っていた。さまざまな人たちが物を売り、買っていく。ジャミルが野菜を大量に購入していた。1週間分の食糧らしい。持つのを手伝い一緒に家に戻った。
兄貴のジャミルがたくさんもっているのに弟のハミッドは荷物を兄貴に多く持たせていた。家に戻ってもジャミルは家の雑事をこなしていたが、ハミッドはなにもしない。ハミッドは俺にぴたりとひっつき、やたらと砂漠ツアーを薦めてくる。山奥で洞窟に住んでいる人たちがいるとも言っていた。英語で遊牧民のことをヌマドというが、みんなヌマドピープル、ヌマドピープルと言っていた。興味があったのでガイド料聞いてみたら３泊４日でなんと４５００ディルハム、約４４０００円である。とんでもない金額だ。
そういうことか。ハミッドの勧誘のしつこさからして、初めから俺をツアーに連れて行くためにここに呼んだのだのかもしれない。客を連れてきてツアーに連れて行くのが彼らが生きていく術なのか。その重大な役を弟のハミッドがかっていたのかもしれなかった。英語もうまいし、なるほどそういうわけなのかもしれない。家のことは何もしないわけだ。嫌われ役を家族のためにこなしているハミッド、そう考えるとひどく納得できた。ここには一泊60ディルハム（約540円）で泊めさせてもらっていたが、ツアーは44000円。到底、容易に出せる金額ではない。
ハミッドにここでの昼食はいくらかかるのか聞いてみた。しかし教えてくれない。「Don't worry, good price」としか言わない。いくら聞いても教えてくれないので町に食べに行くことにした。食べた後にぼたっくられるのは目に見えていたからだ。泊まっておいて申し訳ないが、金で仲良くなりたくはなかった。きちんと金額言って納得してから食べることにした。
ハミッドの誘いを片っ端から断っていたので、ハミッドと少し気まずくなっていた。翌日、朝飯食いながら、ハミッドが「どうしたんだ？何が問題なんだ？俺はお前をだまそうとなんかしてないぞ。砂漠は行くべきだよ、ほんといいところだから」と言ってくる。あまり一方的に断ってもと思い、朝食を食べながら砂漠や山の写真見せてもらえないか頼んだ。するとダンボールを持ってきて、その中のごちゃごちゃした写真を家族で整理しはじめた。客はだいぶ少ないようだ。肝心の山や砂漠の写真はなかなか出てこない。彼らの昔の写真など、そんなものばかりだ。それはそれで興味深い。出てきたかと思えば、今度は家族揃ってツアーの勧誘をしてきた。ここまでくると行ってあげたくもなる。
俺から金をふんだくってやろうとしか思えなくなったときもあり、何回も家を出てやろうかと考えた。しかし、踏みとどまった。仲良くなりたかったので、パソコンなど持ってきて写真を見せたり、また日本の音楽をかけたりしてみた。とても興味を示してくれた。一緒にサッカーしたりもした。日本の料理でも作ってあげたかったけどモロッコの田舎では食材が手に入るはずもなく。こういうとき何か一芸に秀でていたらといつも思う。前から考えていたことだけど、アラブ圏の人と金を使わずに仲良くなりたい。旅をしていて、いつのまにかそれがひとつの壁になっていた。彼らは本当に貪欲だ。マブルック一家も例外なくそうであった。
あるとき庭で一緒に茶を飲んでいたら、俺を含め家族集まってなにやら話しだした。彼らはどうやら電気代を２ヶ月分滞納してるようだった。その金額はなんと2000ＤＨ（約20000円）。あまりにも高すぎるその金額。電気代というのは嘘だろう。おそらく借金でもあるのか、それともただ同情させようとしているのか。明日観光客が30人来るとかで30人分の食材のため1000DH必要だと言ってきた。貸したら戻ってこないのはわかっていた。そして翌日、観光客は来なかった。
ある朝、ハミッドが携帯やらジャケットやらひっぱりだしてきて、買わないかといってくる。ぼろぼろの携帯とジャケット。そんな彼をみて思わず笑ってしまった。いらないので断ったら、「お前が貧乏なのは分かった！町の連中はお前をだまそうとしてくるから気をつけろよ！はっはっはっ！！！しかし、お前と話すと金の話ばかりになるな！お前はブラザーだ、金のことは気にするな！」何回彼と金の話をしたことか。しかし、次第にそんなやり取りが楽しくなってきたのである。
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