湖南省の懐化までの列車に乗り込む。実際には広西チワン自治区・南宇から湖南省張・家界までの列車だった。夜の9時から朝の4時までの乗車。自分の車両を探しているときに気が付いたのだが、私は寝台列車の存在をすっかり忘れていた。チケットを購入するときにも何も言われなかったので気がつかなかった。ホームをあるいて自分の車両を探していると、みな寝台車両で眠る準備をしていた。何かの間違いで自分の席も寝台車両になっていないかと願ったがやはり現地の人がびっしりの硬座だった。6人がけのシートで向かいのおじさんの膝と自分の膝がぶつかるくらいの距離。寝台車両でひっくり返りながら旅をするのとでは雲泥の差であった。とにかく大量の荷物を積み込んで格安の車両に乗っているところを見ると、街まで買い出しに行った帰りのような客ばかりだった。中国に来たなという感覚には浸ることはできた。しかしやはり最低限の下調べはするべきである。
寝台車両
荷物を抱えてホームに向かう人
目の前のおっさんは持ち込んだチキンをほうばりすぐに眠り始めた。隣の爺さまは席が半分しかない
だが、2時間ほどでどこかの駅に着くと、半分くらいの乗客は下車していった。すると皆空いた席でひっくり返り始めた。私もそれを真似て席を確保。スペースにも気持ちにもゆとりができた。向かいのオヤジが物売りを止めて落花生を買っていたので、私も真似をしてひまわりの種とミルクティーを購入した。ひまわりの種は調べてみると栄養価の高い食べ物らしい。一粒で約1キロカロリーを摂取できる。しかし一粒ごとに殻を破って食べなければならない。暇な夜行列車で時間を潰しながら食べるのには最適の食べ物と言えた。向かいのオヤジと共にひたすら殻を破っては食べ続けていた。他の乗客は主にカップラーメンを食べていたが、それも物売りが売りにくるものだった。きっとどこかでお湯が出るに違いなかったが、場所はわからなかった。私はてっきりみんな食べ終えたものを床に投げ捨てると思っていたのだが、みんなゴミ箱にそのゴミクズを捨てに行く。自分で食べたものをきちんと自分で捨てに行く。別にバカにしているわけではないが、10年前に旅をした時の記憶とやはり清掃に対する態度が重ならなかった。向かい合わせの椅子にはテーブルが備え付けられていて、その上には落花生の殻などを受けるための皿が置かれている。落花生を食べていた向かいのオヤジも私もやはり殻をそこに入れながら食べていたが、少なからず地面に落としてしまう。すると数時間おきに人がやってきてホウキとチリトリで掃除をするのだ。日本人と同じといっては語弊があるかもしれないが、それほど清掃に対する意識に違いは感じられなかった。実際、駅のホームの床はピカピカに磨かれていて、トイレも全然抵抗がないくらいに綺麗なのだ。夜中の2時くらいに到着した駅でほとんどの客が降りてから、約2時間ほどで懐化駅に到着。午前4時23分だった。チケット売り場の女性は到着は4時28分と言っていたので、たったの5分の違いだった。気温は6度とさらに下がっていた。
ひまわりの種は5元。食物繊維など栄養豊富。夜行列車のお供にどうぞ
買い出しを終えて家路に着くと思われる人たち
各車両に備わっているトイレには清掃点検表があった
午前4時ではどこで時間を潰そうかと考えていたのだが、駅を出ると「住宿」と書かれた看板が光を放っていた。この列車で朝に到着した人間をターゲットにしている宿に違いなかった。よくみると食事のメニューもあり、すぐそこでは夜明け前とは思えないほど人がたくさんいて食事をしていた。屋台でおばちゃんが一人で麺を茹でたり点心を蒸していた。私はたまらず飛びつきビール、点心、小麦粉の麺を注文した。点心は1聖籠ごとの販売で量が多かったが、全てでたったの18元だった。腹を満たしたので宿に泊まりたいというとOKだという。「住宿」というのは中国の中でも最低ランクに位置する宿のことだ。宿のランクはネットで調べたのと私の体感から以下のようにランク付けできるように思われる。
迎賓館・大飯店・大酒店
飯店・酒店
旅館・旅社
招待所・青年旅舎
住宿・出祖
宿をOKされるとちょっと待っててくれという。どういうことかと待っていると一人の男が現れて、バイクに跨がれと言ってくる。どうやら宿は屋台と直結はしていないようだった。雨が降る寒い中、バイクで2分ほど走る。駅から少し離れた裏路地を進むと金額に見合った宿が姿を表した。地方都市の最安値の宿にふさわしい外観だった。汚い階段を登り男に部屋と便所を案内されると宿代である20元(約300円)を支払った。2畳ほどの部屋にはベッドと机と椅子が窮屈そうに並んでいた。電気は裸電球だけ。しかし電源が取れるなど最低限の設備ではあった。夜明け前から眠るには十分すぎるほどだった。一応布団は一式揃っていたが寒かったのでダウンジャケットを着たまま眠りについた。
懐化駅に到着
懐化駅からでるとすぐに屋台が
予想に反して夜明け前にご馳走にありつけた
20元の最低ランクの宿
しかし最低限の設備は整っていた